ひとりごと
〜2006.Feburary〜

君も社会、僕も社会。

(斉藤和義「わすれもの」より)



2.28 tue.

さて、修論終わったのをいいことに好き勝手に読み漁った、自分の
研究とは全く関係のない新書・文庫の類をレビューする第二弾です。




三浦展『下流社会―新たな階層集団の出現』光文社新書



惜しいというか、物足りない一冊。
自分は統計屋ではなく文献屋なので、統計学的な良否は分かりません。
(社会(心理)学の世界では、統計屋/文献屋と呼んで互いに壁を作るのです…)
それでも、この本については「調査しっ放し」の感が否めない。



マーケティングの本を(関連業界以外の人が)読む面白さって、


「○○調査の結果、現代社会は××であることが分かった。
だからこれからは☆☆になるだろう。よって、私たち(あなたたち)は
△△をしなければならず、また□□をしてはいけない」



という物語の、特に「○○×× → ☆☆△△□□ の流れ」の部分に
あるんじゃないやろか。




「風が吹けば桶屋が儲かる」を物語として説得的に語ることができているから、
読む人はある種のカタルシスを覚えて満足するのです。でもこの本は、風が吹く
原理は丁寧に解説してくれるけれど、風が吹くことにどのような意味があるのか、
それによって何がどうなるのかについての説明が決定的に欠落しています。




極端な話をすれば、「風が吹くと砂が舞い上がる」で説明を
終わらせてしまっているので、読む人は(少なくとも私は)
「それで?」としか言いようがない。




マーケティング調査の報告書じゃないやろし(そんなん新書で出してどうする)、
であれば、若者批判なのか、政策提言がしたいのか、社会不安を煽りたいのか、
何がやりたいんかはっきりせい!と言いたくなってしまうのです。




ただ、調査結果=材料の「料理」を求めてしまうのは、自分がデータに
「物語」を求めているからに他ならず、それがいいことなのか悪いこと
なのかについては、自分でもよく分かりません。




社会を「物語化」することの功罪を、社会について語る人間は
自覚しておかないといけないと思っています。自戒を込めて。






ちなみに、そんな中でも一番面白かったのは、この部分。


「それが証拠に、不良女子高生の援助交際をあれだけ煽った社会学者・宮台真司
さえ、トラウマ系バツイチ子連れジャーナリストとの同棲生活には同棲生活には
不満だったのか、結局は東大名誉教授の娘にして日本女子大卒の、いまどき
珍しい純潔な20歳も年下の女性と(…)めでたく入籍したという」



「上野千鶴子がイケメン医師と結婚して専業主婦になったら、きっと世間は
嘲笑うだろう。それなのに、援助交際を煽った宮台がこんなに保守的な結婚を
しても誰も何も言わないのは、なぜなのか?」




「宮台がリストカット常習援交女子高生を集めたキャバクラでも作ってくれれば、
私は拍手喝采だったなのだが(p155-156)」





本文とは関係のないコラムの部分でこんなコト言ってるところに、
人間・ミウラの本音が見えたような気がしました(笑)。






それにしても、社会学と社会心理学って、やっぱり分かり合えないんやろか…。








竹内一郎『人は見た目が9割』新潮新書


「討論番組の代表格、『朝まで生テレビ!』で興味深い人物は、
姜尚中東京大学教授である。この人は場の支配力がある(p12)」





正直、こう言われると自分には何も言えません。だって確かに、どんなに
滅茶苦茶を言われたって、姜先生に面と向かって反論なんてできないもん(笑)。






まあそれは置いといて、基本的には「看板に偽りあり」な本。
主張されているのは「非言語コミュニケーションが9割」という話であって、
それを「見た目が9割」と称するのは、ちょっと無理がある。




そして「非言語コミュニケーションの重要性」を訴える筆者の主張は確かに
もっともやけど、パーソナルスペースの話とか、色が与える心理的影響とか、
あまりにも当たり前の話が多すぎる。




どれもものすごくトリビアなトピックだし、意外性もなければ面白くもない。
仮に『トリビアの泉』に投稿しても、絶対に採用されないであろうネタばかり。




しかも、この本の主張が全部正しいとすると、このメッセージ自体は新書という
言語コミュニケーション100%なメディアを通して伝達される訳やから、
結局筆者の言ってることは1割しか読者に届かない、という自己矛盾に陥ります。






とはいえこのタイトル、確かに(まさしく見た目の!)インパクトは絶大だし、
その内容がいかに無意味なものであろうと、実際に書店では売れていると
いうのであれば、主張としては間違ってはいないのかもしれません。




まあ、姜尚中のヨルバ語(ナイジェリアの部族語)よりは、ボビー・オロゴンの
日本語の方が、日本人には絶対に通じる訳で。言語コミュニケーションという
基礎の上に積み重なる形で、非言語コミュニケーションはあるのですな。
当たり前といっちゃ当たり前ですが(笑)。






結論としては、『バカの壁』といい『下流社会』といい『見た目9割』といい、
「売れてる新書はタイトルが9割」みたいです。

(ゲンナリしてきたので、『国家の品格』は読みません。いいよね。許して。)




『電車男』レビューのときにも書いたけど、自分で自分の首を
絞めてることに、何で気づかんのかいな…。出版社の方々は。






前回も今回も、何か文句ばっかり言ってる気がするので、次回は
「そんなに売れてもいないけど面白かった新書・文庫」をご紹介。











2.20 mon.

「日本最強の論客って、実は細木数子なんじゃないか?」という疑念を
払拭することが出来ない今日このごろ。




現在、絶賛勢力拡大中の保守イデオロギーって、基本的には本質主義なので、
「根拠」と付随する「論理」を必要としないことを最大の特徴としています。
もちろん、その「論理の無さ」は同時に最大の弱点でもある…はずなのですが、
細木数子をメディアとして使えば、「論理なしで相手を論破する」という
あまりにも矛盾した芸当が可能になる訳で。




「俺様が決めたことが法律なんだ」「若いモンのクセに生意気な」という、
いわゆるジャイアン理論が、「常識」という衣に包まれてじわじわと
浸透していっているような気がして、あまりにも気持ちが悪い。







そんなこんなで今回からしばらくは、修論が終わってから約一ヶ月の間に
読み漁った、自分の研究に全く関係のない言説群(特に最近話題の新書群)を
レビューしてみます。ああ…、好きな本を、好きなように読める幸せ(笑)。







養老孟司『バカの壁』新潮新書


天下の養老孟司・東大名誉教授ともあろうお方が、ご乱心したとしか思えません。
もしくは、メディアリテラシーの教科書として書いたのか?




著者はまず「脳内方程式 y=ax」という図式を提示します。これは、「何らかの
入力情報xに、脳の中でaという係数をかけて出てきた結果、反応がyという
モデル(p31)」とのこと。そして今ドキの若者はものを深く考えるということを
しない、つまりa=0になっているからケシカラン、という、核となる主張を
展開します。




でも、何を根拠として「今ドキの若者はa=0である」といえるのか、という点に
ついては、ごく狭い私的経験に基づくエピソードを挙げるだけで、完全にスルー。




つまり著者の頭の中に「今ドキの若者係数 a=−100」くらいの「バカの壁」が
出来上がっていて、いかなる若者情報(x)が入力されてきても、アウトプットの
段階(y)ではそれは必ずマイナスの値に、つまりネガティブな情報に転換される
ようになっている訳です。




しまいにゃ、著者は同じ論理で「近代以降の急激な都市化が一神教的な
a=0 or 100の状態を作り出した。江戸時代の農民は自然と結びついていたから
強かった」などと言い出します。




「弱い農民」「強い都市生活者」の存在なんて、日本の歴史を紐解けば掃いて
捨てるほど見つかるであろうに、そういった可能性には完全に目をつぶります。
まさに自分の主張に反することに対しては、完全に「a=0」の状態。




自分がいかにして「バカの壁」を築いてきたかを、著書の中で身を呈して
(反面教師として)提示しようとしたと思いたいところですが、そうした実験は、
東大名誉教授としてのご自分の社会的影響力を考えてからやってください。




「昔の日本人は素晴らしく、今の若者はダメになっている」「大きな共同体の
復活が必要だ」「犯罪者の脳のメカニズムをデータベース化しろ」etc...。
おそらく保守主義者たちは、著者自身の「バカの壁」から生まれた理論を、
a=100くらいで受け止めたことでしょう。




それがどういった結果を生み出すか、そこまで考えなかったのだとしたら、
この著者こそが近年稀に見る大バカといわざるを得ません。




一介の大学院生が、天下の養老先生を「大バカ」呼ばわりするのも
どうかと思うけど…でも実際そうとしか思えないんだから仕方ない。
「天下の養老先生のおっしゃることだから正しい」という考え方をしたら、
それこそa=0の思考停止状態に陥ってしまうことになるし。








この約1ヶ月の間、週2冊以上のペースで新書or文庫を読み漁ってたので、
(しかも全部が、自分の研究とはまっったく関係ない本! あー、幸せ/笑)
レビューしたいネタはまだまだあるのですが、「『バカの壁』の壁」が
予想以上に厚かったので、続きはまた次回に。
















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